睡眠時無呼吸症候群が重症化するとどうなる?生存率や治療について
日本では、中等症以上の睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者数が潜在的なものを含めると900万人といわれています。(※1)
睡眠時無呼吸症候群を発症すると単にいびきが大きくなるだけと思われがちですが、
放っておくと、重症化して命に関わる事態が生じる恐れがあるため、とても危険です。
日中の強い眠気や寝ている間のいびきが酷くなってきたら、なるべく早めに専門の医療機関で正しい治療を受けましょう。
重症の睡眠時無呼吸症候群はとても危険
眠時無呼吸症候群(SAS)とは、就寝中に気道が狭くなり、呼吸が何度も止まったり、浅くなったりする病気で、激しいいびきを伴うことがほとんどです。
いびきを伴う無呼吸は、呼吸不全状態を意味しています。
この状態が重症化すると、就寝中の血液の酸素濃度が山の頂上にいる場合と同じ状態になるとされています。
つまり、自分が気付かないうちに身体に大きな負担がかかっているのです。
睡眠時無呼吸症候群の半数は40〜50代の男性ですが、女性でも閉経後に発症する人が増加します。就寝中のいびきを家族に指摘されたり、日中の眠気が気になったりしたら、睡眠時無呼吸症候群を疑いましょう。睡眠時無呼吸症候群をなるべく早めに発見し治療を開始することで、重症化を食い止めることができます。
睡眠時無呼吸症候群の重症化による影響
睡眠時無呼吸症候群が重症化すると、就寝中にいびきをかくだけでなく、起きているときの強い眠気によって怪我や命の危機に繋がる事故が発生する恐れがあります。
また、睡眠時無呼吸症候群を持つ人は、多くの場合さまざまな生活習慣病のリスクを抱えており、循環器疾患などの重大な合併症を引き起こすこともあります。
交通事故
睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、血液中の酸素濃度が低下し、慢性的な睡眠不足になります。
その結果、運転中でも強い眠気が起こり、交通事故に繋がる恐れがあるのです。
重症の睡眠時無呼吸症候群を持つ人が交通事故を起こす確率は、健康な人に比べて2.5倍も高いことが判明しています。(※2)
日中にも関わらず運転中に強い眠気を感じる人は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
睡眠の質が悪くなっていないか、普段の睡眠状況をチェックしておきましょう。
循環器疾患
睡眠時無呼吸症候群が悪化すると、動脈硬化や脳卒中、心不全などの心血管疾患を合併するリスクが高くなるといわれています。
これらの合併症は症状が深刻化するまで気付きにくいため、突然死する場合もあります。
心疾患による突然死が発生した112の事例を調査したところ、
深夜0時〜午前6時に突然死が発生した人の46%に睡眠時無呼吸症候群がみられたと報告されています。
また、睡眠時無呼吸症候群のない人(21%)と比べて明らかに突然死のリスクが増加しており、睡眠時無呼吸症候群が心疾患の突然死を引き起こす危険度は2.57倍高いことが分かっています。(※3)
睡眠時無呼吸症候群の重症度
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠1時間辺りの無呼吸回数が5回以上である状態とされています。
また、睡眠時無呼吸症候群の重症度は、睡眠1時間辺りの無呼吸と低呼吸の合計回数(AHI)を調べることで判定することができます。
軽症 5~15回
中等症 15~30回未満
重症 30回以上
日本国内では、約200万人が中等症以上の睡眠時無呼吸症候群を抱えていると考えられています。
しかし、この数字はあくまで「睡眠時無呼吸症候群と診断された人」だけであり、診断を受けてない潜在的な睡眠時無呼吸症候群の対象者は約900万人ともいわれています。
睡眠時無呼吸症候群の重症化は、生存率の悪化にも繋がります。
重症の睡眠時無呼吸症候群を8年放置すると、生存率が63%にまで低下することが分かっています。(※1)
睡眠時無呼吸症候群の治療方法
ここからは、睡眠時無呼吸症候群の主な治療方法についてご紹介します。
また、専門の医療機関での治療だけでなく、普段の生活を見直すことでも睡眠時無呼吸症候群の重症化を予防できることも知っておきましょう。
経鼻的気道持続陽圧療法(CPAP療法)
経鼻的気道持続陽圧療法(CPAP療法)は、睡眠時無呼吸症候群の最も重要な治療方法とされています。CPAP療法では、鼻にマスクを装着して専用の機械で空気を送り込みます。
この機械からは圧力が生じており、肺にスムーズに空気が流れるようになるため、無呼吸状態を解消できるのです。
CPAP療法は重症の睡眠時無呼吸症候群にも効果を発揮しますが、鼻だけを覆うマスクでは上手くいかない場合、口と鼻を一緒に覆うマスクを使用したり、先に外科手術で鼻の通りを良くしたりすることもあります。
CPAP療法で使う機械は年々小型化されており、カバンに入れて持ち運ぶこともできます。
ただし、機械の調整や体調のチェックをするために、月に1回程度の通院が必要です。
また、CPAP療法の導入には1泊2日程度の入院が必要となる場合もあります。
入院が必要かどうか、担当する医師に事前に確認しておきましょう。
マウスピース療法
マウスピース療法は、就寝時に専用のマウスピースを装着することで下顎を前側へ移動させる治療方法です。日本では、2004年より眠時無呼吸症候群の治療用のマウスピース使用が健康保険の適用となっています。
ただし、マウスピースを製作するためには使用前に虫歯や歯周病、顎関節症が無いかどうかチェックすることが必要です。
マウスピース療法を検討している人は、睡眠時無呼吸症候群の治療経験がある歯科医に相談することをおすすめします。
生活習慣の見直し
生活改善の見直しも、睡眠時無呼吸症候群の治療に有効です。普段の生活で睡眠時無呼吸症候群を改善させるためには、次のような方法があります。
特に、肥満の改善は就寝中の無呼吸を減少させる効果が高いといわれています。
また、睡眠時無呼吸症候群の合併症である心血管疾患や糖尿病などの予防にも効果的です。
アルコールや睡眠薬は喉の奥の緊張を低下させる作用があるため、就寝中の無呼吸リスクが上昇します。
そのため、睡眠時無呼吸症候群の症状がある人はなるべく控えましょう。
ただし、すでに重症となっている場合は医療機関での治療を優先させた方が良いでしょう。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群が重症化すると、交通事故の増加や心血管疾患などの重大な合併症を引き起こすリスクもあります。
就寝中に大きないびきをかく人は、睡眠時無呼吸症候群を抱えている可能性があります。
そのため、いびきについて家族から指摘されたら、放置せずに睡眠時無呼吸症候群専門の医療機関を受診することが大切です。
一人暮らしでいびきについて分からない場合は、昼間や車の運転中に強い眠気を感じるか思い出してみましょう。
また、睡眠時無呼吸症候群の治療として、生活習慣を見直すことはとても重要です。特に、肥満は就寝中の呼吸に大きな影響を与えます。食生活のバランスを整えたり、身体を動かす機会を増やしたりすることで、普段から重症化を予防していきましょう。
(※1)佐藤誠. II. 睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の疫学. 日本内科学会雑誌, 2020, 109.6: 1059-1065.
(※2)睡眠時無呼吸症候群 (SAS) が運転に与える影響
(※3)百村伸一, et al. 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン. Circulation journal: official journal of the Japanese Circulation Society, 2010, 74: 963-1084.